杉山 文野(すぎやま ふみの) NPO法人東京レインボープライド共同代表理事 4年前に文野さんとおつながりいただいて、ずっと取材機会を窺ってまいりました。今回、乙武さん執筆の「ヒゲとナプキン」原案、そして新刊「元女子高生、パパになる」を出版されるとお聞きして、このタイミングでお話し伺えてうれしいです。この4年間で結婚や子育て…ライフステージが変化するなど、ずいぶんご自身も環境変化されたのでは? 4年前は妊活をしていました。パートナーとは10年の付き合いでも婚姻関係は結べないんです。僕は見た目おじさんですが戸籍上は女性。日本の法制度では女性同士の婚姻は認められないのです。そして法的には血縁関係のない子どもを育てているので、シングルマザーと赤の他人が一緒に生活をしているということになります。 日本ではそうした法整備が欧米諸国に比べて追いついていない感がありますか? 遅れていますね。例えばG7において同性パートナーに対する法的保障がないのは日本だけです。最近グローバルにはもう「同性婚(Same sex marriage) 」という言い方はほとんどしておらず「婚姻の平等(Marriage equality)」という言い方をしています。すべて国民は法の下に平等…と言っておきながら結婚できる人とできない人がいるという矛盾。これは解決すべき課題です。構造的な差別がある限り、意識として差別や偏見はなくならない。一方、僕はトランスジェンダーなので、2004年に性同一性障害独立法というのができて、ある一定の要件を満たすと性別の変更ができるようになりました。でも戸籍変更の要件は非常に厳しくて、その一つに生殖機能を永遠に取り除くことがあります。僕自身は乳房切除は手術でしましたが、子宮と卵巣の摘出はしていません。手術は体に負担が掛かるのと、金銭的にも多大な費用が必要です。今回の本は、まさにそれが大きなテーマのひとつでもあります。 手術を前提に新しい戸籍を引き換えにするのは、心身共にストレスが大きいですね。 トランスジェンダーは個人差が大きくて、手術が必要な人もいれば、手術は不要な人もいる。僕の場合、目に見えるおっぱいはあまりにも苦痛だったので手術しましたが、見えない生殖器はそこまで体に負荷を掛けて手術をしたいと思いません。トランスジェンダーは、自分さえ我慢して手術をすれば望む性別の戸籍が手に入るし、安定した生活ができる。だから体にメスを入れる。生きるために制度があるべきで、制度のために生きているわけではありません。体を切り刻んで社会に無理やり当てはめるより、社会の制度が変わったほうがいい。保険適用されるようになった報道がありましたが、それも使うにはかなりハードルが高くて、ほとんど適用されないも同然です。第一に僕の戸籍上の性別が男か女かということで誰かの人生に迷惑をかけることがあるのでしょうか? 婚姻の平等や特例法の改訂が実現されて幸せになる人はたくさんいますが、不幸になる人は誰もいません。 本当にそうですね。今回15年ぶりにたて続けに書籍を出されることになったのはそうした経緯があってのことですか? 僕は約15年前に「ダブルハッピネス」という本を書いたことをきっかけにLGBTの啓発活動に関わることになりました。紆余曲折ありつつでしたが2013年からは個人的な活動だけでなく、パレードという大きな社会運動に関わるようになったことも僕にとっては大きな出来事でしたね。日本のLGBTQを取り巻く社会環境が大きく変化したし、僕個人も大きく変化があった15年でした。一方で、どれだけパレードが話題になっても、なかなか届かない層の人たちがいます。そうした時にエンターテインメントという切り口はすごく大事だよね、という話になりました。2018年に浜崎あゆみさんがパレードにいらしてステージで歌ってくださったことで、ワイドショーなどにも取り上げられてお茶の間のニュースになりました。会場にあゆを見に来たという方々が、これをきっかけにLGBTQを知ってもらえるのは大切な機会だと思いました。ただ真正面から「我らに人権を!」というだけでなく、様々な手法でアプローチしないと社会は変わっていかないと思います。LGBTQは全人口の3~10%と言われますが、仮に当事者が5%としても、その5%の意識を変えるよりも、それ以外にいる95%の人に知ってもらうためにはどうしたらいいのか。当事者のエンパワメントはもちろんですが、LGBTの当事者以外の人にいかに知ってもらうかが大切だと思うんです。 |
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